トップページにもPRがありますが,「認定クリエイティヴ・セラピスト養成土曜講座」の体験版という形で,無料体験・公開講座「クリエイティヴ・セラピー」を開催することになりました。体験したからといって養成講座の受講をしなければいけないというわけではないので,気軽に体験してみてください。心理学やカウンセリングのことはほとんど知らない状態でも,専門家でも充分楽しめて学べる講座になるように企画していますので,たくさんの方のお越しをお待ちしております。
先日,といっても何ヶ月も前だけど,「私設心理相談」(要するに開業心理臨床)の研修会に行ってきました。それで,しばらくしてからその感想を書いてほしいと知り合いを通して依頼があって,自分の意見も含めて書かせていただいたので,それに関する話をしようと思ってます。例によって,ブログでは一般用語である「開業」という言葉を使わせていただきますので,(関係者の方)ご了承ください。研修会の感想はおいといて,自分の意見の部分を,もう少しざっくばらんに書きます。
臨床心理士に限らず,カウンセリング/心理療法の領域は民間資格が乱立状態で,数日程度の研修で資格が得られるお手軽なところから,学校的に1年程度のカリキュラムが組まれているところまでいろいろ。心理学を学びたいというニーズは,一時のブームは落ち着いてきているとは言ってもまだ結構あって,学びたい人が学べる場があるということはいいことだと思う。僕だって,認定クリエイティヴ・セラピストという民間資格の講師の一人でもあるわけで,コラージュや芸術療法,臨床色彩心理学に関心のある人にとってはそれを学べる場を提供している立場だし。問題にしたいのは,開業を前面に出しているカウンセラー/セラピストの民間資格で,もちろん誠実で良心的にやっている人もたくさんいるのは知っているけれど,結構な割合でクライエントさんを自分の心理的/物質的な欲求のために利用するようなカウンセラー/セラピストがいるということ。
僕が担当してきたクライエントさんの中には,過去にカウンセラー/セラピストにひどい扱いをされてきた人が時々いる。時々とは言っても,たぶん一般の人が想像する以上の高い割合だと思う。散々説教された,罵倒された,喫茶店やファミレスなど秘密を守れない場所で行った,個人的(性的を含む)関係に持ち込まれるなど,直接/間接を含めていろいろな話を聞く。どれもこれも,臨床心理士なら倫理規定に違反するようなことであるし,そういう教育がされていない,あるいはカウンセラー/セラピスト側の欲求を自身で自覚することなく(もしかしたら故意かもしれないがそんなものは論外)そういう言動をとっているのだろうけど,とにかく,そういう扱いを受けてきたクライエントさんの話を聴いていると,非常に憤りを禁じ得ない。
クライエントさんとカウンセラー/セラピストの関係というのは,ロジャリアン的に対等の関係であろうとしても,クライエントさんからすればパワーバランス的に弱い立場に置かれるのは必然である。そのクライエントさんを守るための倫理というのは最も前提となる重要なものであって,組織的な枠組みがない開業臨床においては,要するに下手なことをすれば首を切られる心配がない分,自己規制というものを厳しく課さなければ,容易に自我肥大的なズレが生じてくる。それは,本来的にクライエントさんが弱い立場に置かれているという関係性の中におかれるカウンセラー/セラピストがパワーバランス的に強い立場に布置されてしまうという,陥りやすい部分なのだ。ある意味,開業しているカウンセラー/セラピストというのは,組織的な制約を受けない分,自我肥大に陥りやすい宿命を負っているとも言える。その点を重々自覚していないとならない。
開業を謳っているカウンセラー/セラピスト資格という形式は,わざわざこの自我肥大をさせようとする方向に煽ってしまう危険性を強く孕んでいる。ビジネス的に言うなら,確かに開業できる資格というのは訴求性が高いし,集客するための謳い文句として使いやすいということは言える。しかし,それがクライエントさんの利益につながるかと言えばかなり疑わしい。「クライエントさんに貢献する」という目的が,実は「カウンセラー/セラピストの自己満足(自我肥大)に貢献する」という目的とすり替えられているものだということになりかねない。それに対して,臨床心理士の世界は安易な開業をよしとしないというスタンスを取っている点で,反対の態度をとっている。それは,組織という枠組みの中で規制を受けながら,自己規制能力とクライエントさんに貢献するという心構えを健全に育んでいくという意味が強いのだと,個人的には考えている。
依頼された原稿では,前述したようなカウンセラー/セラピストの問題点を挙げて,臨床心理士がしっかりした研修などを受けて早期に開業する方向を推進して,クライエントさんが不利益を被る状況を少しでも改善するという提案をした。その方向性は変わっていないけど,臨床心理士の世界全体が安易に開業するという方向性をもつことは危険だし,諸先輩方の,そして臨床心理士会など組織としての規制能力を発揮して,安易な開業をよしとしないというスタンスは保ち続けられることが重要だということを補足したい。