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Blogger's Avatar  2009-6-19 17:47
 またもや更新が遅れました。お詫びのしようもありませんが,ごめんなさい。忙しい状況が続き,ストレスがかかることもあって,初めて帯状疱疹というものになりました。痛い痛いとは聞いてたけど,布が触れただけで痛いので,本当に大変でした。身体というのはいろいろなシグナルを出してくれるんだけど,忙しくしてたりすると素通りしがちで,ボディワークをする者としてはもっと自分の身体とコミュニケーションしなくちゃと反省もあり,まあいろいろと,前後に起こった出来事も含めて,自分を見つめ直す機会になったと思います。
 さて,今回は題名通り「現場感覚」というものを最近よく考えるので,取り上げてみようと思います。臨床心理士というのは,臨床心理学に基づいて様々な理論や技法を学ぶわけですが,いざ現場に入ってそれを活用しようとすると,学んだことがそのまま通用するということは少ない。カウンセリング/心理療法というのは,基本的に1対1の関係で,枠という構造の中で考えられてきた部分が多くて,それを教育や医療・福祉といった組織やチームとしての構造ができている中で原理・原則通りやろうとすると難しいということは,たぶん現場に入っている臨床心理士だったら経験しているんだと思う。やはり現場では現場感覚というか,現場の中で臨機応変に考えていくということが重要になるので,頭でっかちに大学院で習った原理・原則を頑なに適用しようとすると,いろいろと現場では不都合が起こる。これから現場に入ろうとする人は,そういうことを踏まえておいた方がいいと思うし,僕自身のスタンスの確認も含めて書きますね。
 例えば,スクールカウンセラーなどで学校現場に入ると,教員との関係や保護者が絡んでくるし,教育相談でも指導主事(基本的に教員)や保護者,医療現場なら医師をはじめ医療スタッフ,産業系だと産業医や人事関係者,まあいろいろな人との関係が絡んでくる。また,その現場でのやり方や,複数の心理職がいればその現場に合わせて工夫してきた歴史とか,様々な背景とか文化的なものがあって,その現場の構造というものができあがっている。現場に入ったら,その現場の背景や構造の中での枠というものを考える必要があって,1対1の面接構造が可能ではあっても,そこでの枠は,いわゆる大学院で学ぶような枠とは異なっている。原理・原則としての枠はやはり1対1の面接構造のみを考えた枠であって,現場の枠というのはその現場の構造をひっくるめた中での面接構造となる。
 そのひとつは「集団守秘義務」という考え方だろう。本来,心理臨床における守秘義務とは1対1の面接構造の中で考えられた倫理だけれども,それを守ろうとすると組織構造の中のカウンセラー/セラピストが機能しなくなる。担任の先生とか医師が,心理職が面接の中で何をやっているのかわからないというのでは,組織全体として機能しないし,カウンセラー/セラピストが例えば頑なに個人間の守秘義務を守ったとしたら(実際にスクールカウンセラーの導入当初はそういうことが起こっていたし,他の現場でも結構起こっていた),カウンセラー/セラピストが組織構造の中で孤立して機能できなくなってしまう。そういうことが,日本では特にスクールカウンセラーの導入時に問題となってきたので,「集団守秘義務」という言葉が出てきたわけで,1対1の個人面接の構造しか考えなくてよかった時代は,そんな言葉はなかったと思う。
 結局,臨床心理学の原理・原則はスクールカウンセラー導入を中心的な契機として,個人の面接構造の時代から,カウンセリング/心理療法の適用範囲が広がって組織構造の中の面接構造という時代に,少なくとも現場レベルでは移行する必要が出てきている。このことは,臨床心理士会などでも議論されてきたことだと思うけれど,どうもまだ大学院レベルではこの現場感覚というものが乏しいように感じられる。それは,大学院を修了して現場に入った人たちの多くが感じているように思う。
 現場に入ると,その現場の中で原理・原則としての枠をどこまで臨機応変に考えていくかということがまず問われるように思う。枠が重要でないというつもりはないが,枠より重要なものは確かにある。枠という原理・原則を守ろうとするあまり,クライエントさんや患者さんといった最も大切にするべき相手を大切にできないのなら,そしてカウンセラー/セラピストであるあなた自身を大切にできないのなら,本末転倒になってしまう。原理主義に陥ってはいけない。好き放題にやっていいわけではもちろんないのだけど,何のために原理・原則というものが生まれたのかという背景をよく考えて,そこに込められた偉大なる先達たちの想いという視点から現場を見直してみれば,その現場でのあなた自身の原理・原則というものが生まれてくるはずだ。

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