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Blogger's Avatar  2014-8-26 20:27
 研修や学会などで忙しく,また更新が遅れてしまってごめんなさい。暑さにまいっていた部分もありますが,ここ数日は過ごしやすい天候でよかったです。恐らくまた残暑が戻ってくると思うので憂鬱ですが,気温の変化は意外にストレスになるので,注意して夏を乗り切りましょう。今回は,学会で発達障害に関連するケースを中心に聞いていましたので,最近の傾向などを書いてみたいと思います。
 研究テーマとしてはひと区切りついたことや,昨年から発表形式が変わったこともあって,5年続けていた発達障害に関する学会発表をひとまずお休みにしていて,他の人の発表を多く聞くようにしています。最近は,僕がずっと主張していた,発達障害に対してもプレイセラピーなどの心理療法的アプローチが有効に働き得るというようなケースを発表する人が増えてきた印象があり,多少なりとも発信してきたことを伝えられたように感じています。そういった発表者を含め,現場で臨床をしている人たちと話してみると,僕と同じように感じている人も多く,とても嬉しい気持ちになります。僕がこのようなテーマで発表しようとしたきっかけが,発達障害には心理療法は無効というほどの論調があり,数年前でもそういう論文や書籍を目にしていたのですが,現場サイドではそれぞれ工夫しながら心理療法的アプローチに取り組んでいることがわかってきたので,安心できてきた感じです。研究という文脈では,従来の知見と異なる新しい提言などをするわけですし,研究中心の方は現場の臨床がそれほど多くない場合も結構あるので,そういった極論とも言える見解が出てきたりするのではないかと思います。研究サイドと臨床サイドの感覚の違いというか,そこを適切にバランスを取れるようにしていくことが大切なのだと感じました。

 また,最近の発表を聞いていると,発達障害の診断がついているケースでそのようなタイトルで発表されているのですが,実際にケースの経過などを聞くと,どうも典型的な発達障害とは表れ方が違っていて,発達障害的な様相を呈しているだけということが多いと感じています。例えば,幼少時に虐待やそれに類する環境で育った子どもは,一見発達障害に見えるような状態に陥っているというケースがよく見られます。また,思春期〜青年期ぐらいになると,取り巻く要因が複雑化していて他の神経症的な症状やパーソナリティ傾向などが複合しているのを発達障害と誤認したりもします。ある程度の臨床経験のベースがあって丁寧に関わっていくと,その区別は概ねできるようになると思いますが,既に医師の診断を受けていて依頼があったケースとか,発達障害という文脈で見ようとするセラピストや所属する組織の傾向などによって,先入観ができてしまい見立てにズレが出てくるのだと思います。見立てがずれるとアプローチがずれてしまい,心の発達や症状の背景にある中核的な部分に届かないことにつながってしまいます。もちろん,セラピストも一生懸命やっていて,その姿勢がクライエントさんに非言語的に伝わってある程度の改善が見られることもあるわけですが,何か焦点がぼやけたような流れになりがちです。

 両方の話題で共通するのは,人間は誰しもフィルターを通して物事を捉えていて,研究者やセラピストは自分のフィルターがどんな色なのかをよく知っておくことが大切ということでしょう。また,専門家であってもなかなか難しさがあるということでもあります。医師の診断にも自分の見立てにも飲み込まれることなく,絶えず目の前のクライエントさんと,そして自分自身とも向き合い見立てを修正していく姿勢が重要なことを,自戒を込めて伝えたいと思います。発達障害は,語弊があるかもしれませんが,ブームと言ってもいいぐらいの状況です。書籍やインターネットなどの情報も多いので,発達障害ではないかと心配されて来談する保護者や本人も増えています。教員や友人などがにわか知識で助言したことで不安になる方も結構見られます。どうも名称が一人歩きしていて,「不適応でちょっと了解不能なら発達障害」みたいな安易な決めつけやレッテル貼りになってしまっているのも懸念しています。本質的なことではないところで発達障害が使われすぎて,傷ついたり不利益を被っている発達障害の方もいらっしゃいます。他の診断名でもそうですが,臨床経験がない人が診断項目などを当てはめて正確な判断ができていることは稀です。実際,専門家以外の判断を心配して来談される方の9割は判断が誤りであると言っていいのが実感です。専門家でさえ,絶えず見立てを見直す姿勢が必要なのですから,自己判断ならともかく,他者に対して安易に発達障害といった判断をされるのが減ることを願ってやみません。

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