暑さも少し和らいできましたね。今月の半ばには「自己成長プロセスワーク体験セミナー」を行ったこともあり,最近は何かと進める案件が多くて,ブログもなかなか予定通りに書けていませんが,遅れても何とか月に1度の更新は守りたいと思います。今回も遅くなりましたが,少し違う方向で心理臨床家とメディアの関係について書きたいと思います。
メディアというのは,一般にはテレビや雑誌などの媒体を指しますが,最近はインターネットも大きなメディアとなってきています。僕のように,ウェブサイトやブログによる発信なども広い意味ではメディアと言えます。心理臨床家は,テレビなどの特に目立ったメディアには出ることが少ないと言えます。特に臨床心理士は,頻繁にテレビに出ている人を除けば,僕の知る限りほとんど出ていないはずです。これは,ひとつには,テレビなどの大きなメディアは,人の心理について意見を求められることが多いということが挙げられます。臨床心理士は,その教育課程や研修のレベルにおいて,心理臨床家の中でもトップクラスと言っていいでしょう。だからこそ,人の心がひとりひとり違っていて,複雑に絡み合っていることを知っています。ですから,ある特定の人物の心理について,会って話もしていない人についてコメントするようなことには,とても慎重です。クライエントさんとして出会った一人ひとりに向き合い,その複雑な心のありようを理解していこうとするのが,心理臨床家の仕事だと思います。
もちろん,会って話をしている人の心理についてコメントするとすれば,それはほとんどの場合に守秘義務に反しますから,それもできません。守秘義務というのは,家族にでさえ本人の許可がない限り,カウンセリング/心理療法の内容について伝えることはないのですから,メディアに出すということはあり得ないことになります。本人の許可がある場合などに,全くないとは言えませんが,それでもかなり慎重になります。これは,他のクライエントさんとの関係も生じてくるからです。本人の許可があったとしても,それについてメディアに書いたりすると,誰にも知られたくないような内容の相談をしているクライエントさんにとって,潜在的な不安につながる可能性があります。自他境界が弱いようなパーソナリティ傾向があったりすると,自分のことも書かれるのではないかと思ったりする場合があります。心理臨床の書籍などで,事例を挙げるときに,複数の事例の共通点を組み合わせたものといった説明を加えることが多いのですが,このような事情があることも背景にあります。
関係妄想と呼ばれる,客観的に見て全く関係がない出来事を何でも自分に結びつけてしまう傾向がある人などの場合,事例などではない一般論的な内容を書いても,自分のことを書いていると頻繁に訴えてきたりします。この意味では,ブログやFacebookページといった小さなメディアで書いていることでも,クライエントさんとの関係性に影響が生じる可能性は否めません。しかし,そうなると,最終的には何も書けないということになります。書籍などで,複数事例の組合せを挙げている諸先輩方も,自分のことを書かれたと言われる可能性は充分にあるわけです。大切なのは,職業倫理に照らして守秘義務を確実に守っているということです。僕自身も,これまでに特定の事例について,ブログやFacebookページなどのメディアに書いたということは一切ありませんし,治療論のような症状への対応などについてほとんど書いていないのも,こういった理由からです。何らかの心理分析や事例への対処法に関心がある方も多くいらっしゃるとは思いますが,専門的な内容については,専門家向けの講座やセミナーで扱っていきたいと考えています。もちろん,一般論的な範囲では,心理臨床を学んでいる人や実践家の方にも,参考になる内容を書いていきたいと思いますので,これからもよろしくお願いいたします。