Facebookページの方では直後に書きましたが,熊本の大地震で被災された方やその関係者の方には,心よりお見舞い申し上げます。余震は落ちつきつつあるようですが,まだ安心できる状況ではないと思います。1日も早く,安心して過ごせる日常を取り戻されることを願っていますし,僕もできる範囲で支援をしていきたいと考えています。今回は,被災地への心理的な支援について書きたいと思います。
このような大きな災害があると,心理を専門にしていると「早く心のケアが必要」と思いがちです。もちろん,どこかの段階で心のケアは必要になるのですが,初期には被災した人々との信頼関係を築いていくことが大切だと感じます。東日本大震災の時に,少し問題になった話を聴いて当時も少し書きましたが,専門家の側が必要だと思っていても,当事者はそれどころではなかったり,そのタイミングではないことが結構あります。一歩間違えると,心理系の団体か何かだったと思いますが,親切の押し売りみたいになってかえって迷惑がられたという事例もあったようです。今回も,必要な支援物資が届かず,足りている物資が余って置き場所に困ったといった問題が出ていますが,それと類似しています。個別に動かずに,行政とも連携して取りまとめる団体などを決めて組織的に,ニーズを把握しながら進めていくことが大切になります。こう書きながらも,現地は様々な混乱があると思うので,どうにも理想論的な感じになっているなという感じもしますが,何かの参考になればと思って続けてみますね。
信頼関係と書きましたが,通常のカウンセリング/心理療法でも,ラポールを築くことは基本中の基本です。ですが,被災地支援となった時には,大きな枠組みとして被災した避難所などのコミュニティ(と言えるかどうか微妙ですが)との信頼関係が必要になるでしょう。特に初期は,命の安全が保たれ,衣食住などが整っていくことで安心感が少しずつ戻っていきます。このような日常を取り戻すことの支援が,心理的な支援ともつながっていると言えます。カウンセリング/心理療法は一般的に,日常での諸問題を非日常の場で心を癒し支えていくという構造があり,多くのカウンセリング/心理療法はそれを前提に理論や技法が構築されています。被災地支援の心理的ケアにおいて,最も大きな違いはこの構造だと考えられます。被災者のみなさんは,日常から災害によって非日常の世界に強制的に追いやられている状況と言えます。非日常の状況においては,日常を支える支援が重要なので,日常に戻ることを心理的に支援するという視点を支援する側がもっていることが大切になると思います。生活面で困っていることを聴いて,解決方法を一緒に模索することも心理的な支援の一環だと思います。
もうひとつは,プロセスワークで「ランク」と呼ばれる問題です。ランクには社会的ランク,心理的ランクなどがあります。ランクの低い側に置かれた人々は,その違いを敏感に感じとりますが,ランクの高い側というのは,そのことに無自覚になりやすいことが指摘されています。プロセスワークは,異なる集団間で生じる葛藤を心理的に扱うことをとても重視していて,被災地のコミュニティと支援者グループの間や,個人間の心理的サポートにおいても,このランクの視点はもっておくことが信頼関係を築く上で大切だと感じています。単純な図式で言うと,支援される側というのはどうしても低いランクに置かれてしまいます。そうすると,相対的に支援する側はランクが高くなり,よかれと思ってやっていることでも,ランクの低い側からすると上から目線のように見えてしまったりします。逆に,低い側からは言いたいことが言えなくなったりもするので,ランクの高い側がそれを自覚して,そのランクから降りて同じ目線になることが信頼関係の基盤になります。特に専門家ということだけでランクが高くなるので,自分が体験していない被災者としての苦労や不安を教えてもらうような姿勢で臨むのが適切だと思います。そうすると,遠慮して言えなかったことが話せるように心が支えられて,日常を支援することにもつながっていくはずです。