多忙さと夏バテ気味なのとで,また月末ギリギリになってしまいました。お待たせしてすみません。一時の猛暑は少し緩和した感じがしますが,豪雨での水害などが各地でありますし,ここ数年はその警戒も必要ですね。暑さだけでも結構なストレスですので,身体的なケアに加え,自律神経が乱れるので気持ちを落ち着けられる時間をもてるようにすることが大切です。今回は,自己肯定感と承認欲求について書きたいと思います。
「自己肯定感」というのは,文字通り自分自身に対して肯定的な感覚をもてることを指しますが,自己肯定感が高い/低いとか自己肯定感を高めるとか,子どもの教育に関する文章などでも一般的に使われるようになってきました。基本的には,自己肯定感が高い方が望ましいですし,子どもの自己肯定感を高めるためにはほめて伸ばすという方向が勧められます。否定されてばかりだと,自己肯定感は低くなりますし,特に人格否定のような言葉は避けることが重要です。子どもの自己肯定感に関しては,親や本人が愛着を感じている養育者の言葉が最も大きく影響します。次に,教師や友達同士との関係の中での影響が大きくなります。親や養育者の言葉による自己肯定感は子どもの心の基礎をつくるもので,主に本人の存在自体に関わります。自分が愛されている,大切にされているという実感は,心の地力のような基礎部分を形成し,困難を乗り越えて生き抜くような強さをもたらします。また,教師や友達同士の関係では,社会性における自己肯定感といえるものを主に形成するため,人との関わりの中で自分が大丈夫だという感覚につながります。自己効力感(セルフエスティーム)との関連も深く,好奇心や積極性を発揮して物事を成し遂げていく原動力になっていきます。
「承認欲求」は,心理学の中でマズローの欲求階層説から派生して言われるようになったようですが,承認欲求の強さが揶揄されることも多いように感じています。自己肯定感が低いと承認欲求が強くなりやすく,特に社会性における自己肯定感が低いと,何かと自分の成果などを周囲にアピールしたり,何か自慢できることがあるとひけらかしたりすることが多くなり,周囲には敬遠されたり煙たがられてしまったりする傾向にあるので,揶揄の対象になるように思います。SNSなどでも「いいね!」等を集めることで承認欲求をその場だけでも満たせることから,そのためにいろいろなアピールに躍起になる人も結構いるようです。健康な承認欲求は,努力するモチベーションにもなるので,悪いものではないのですが,歪んだ自己愛などと関連すると承認欲求がおかしな方向に向いてしまうので,自己肯定感がどのように形成されているのかも,丁寧に見ていく必要があります。自己肯定感だけが妙に高くても,ただの自己満足であったりもするので,高ければいいというものでもなく,バランスが大切だと思います。
親や養育者による心の地力としての自己肯定感と社会性における自己肯定感は車の両輪のようなもので,どちらも重要です。心の地力としての自己肯定感が高くても,社会性における自己肯定感が低いと,家族関係の中での自己肯定感の傷つきを避けるために,社会とのつながりを避ける傾向が強くなっていきます。不登校やひきこもりの中には,このような構造の自己肯定感の歪みがみられる場合も多くあります。いわゆる過保護な育て方が高じると,自己肯定感がおかしな形で解釈されるというか,子どもを失敗させないようにする親の不安の方が大きく,社会性における自己肯定感を育てる機会を失ってしまうことが多くあります。反対に,地力としての自己肯定感が低いままだと,社会性における自己肯定感の高さというのは脆弱さを抱えていて,成功者とみられていても転落の不安などから評価が下がったりすることに耐えられず,常に注目を浴びようと策を弄したり,他者を貶めようとするなどの行動をとりがちです。地力としての自己肯定感が低いままだと,社会的な評価が高まったり承認を受けても,社会性における自己肯定感も高くならず,自分に不相応だとプレッシャーに押しつぶされるようなことも多いので,承認欲求が弱いという場合もあります。カウンセリングでも,自己肯定感はテーマになることが多く,不安障害やうつ病とも関連が深いものです。